CHALLENGING INNOVATOR|医療法人石倉歯科医院井汲 憲治


インプラントを一生機能させることで、患者の“元気で長生き”に貢献したい。

何らかの原因で歯を失ってしまった場合の治療法のなかで、機能回復や審美性の点でもっとも優れているデンタルインプラント。
インプラントの寿命に悪影響を及ぼすインプラント周囲炎対策について、新しい治療技術をもって取り組んでいるのが、群馬県高崎市の医療法人石倉歯科医院。院長の井汲憲治氏の挑戦をご紹介しよう。

画像はイメージです。

残存率に悪影響を及ぼすインプラント周囲炎。

顎骨にチタン製の人工歯根を埋め込み、その上に人工歯を取り付けるデンタルインプラント。
入れ歯に比べ、違和感なく食べ物を噛んだり話したりすることができるため、自由診療ながら年々普及が進んでいる。
しかしインプラントは一生機能するとは限らず、せっかく入れたインプラントを失ってしまう場合もある。
そんな事態をもたらす代表的な要因が、「インプラント周囲炎」だ。「歯周病と同じように、インプラントの表面が細菌に感染した場合、インプラントの周囲の骨が部分的に溶けてしてしまうことがあります。

これをインプラント周囲炎と呼びます」と語る、医療法人石倉歯科医院の井汲憲治院長。

インプラント周囲炎が起きる原因はさまざまだが、口腔内に強い炎症を引き起こすタイプの歯周病菌が存在したり、菌や炎症に体の組織が過敏に反応してしまう体質の場合は発生しやすくなる。従って、歯周病が原因で歯を失った人は、インプラント周囲炎を発症する確率も高いことが分かっている。インプラント周囲炎を防ぐためには、定期的なケアが欠かせない。
患者自ら日常的に行う歯磨きに加えて、定期的に歯科医に通ってメンテナンスを受けることが重要だ。
「インプラント治療を行った後は、3〜4カ月に1回のペースでプロによる検査と清掃を受けるべきです。それによって、インプラントの寿命を延ばすことができるだけでなく、残っている歯の虫歯や歯周病を未然に防ぐことができます。
歯科医によるメンテナンスを受けている患者とそうでない患者とでは、インプラントの残存率に大きな開きが出ることが証明されています」

またきちんとケアを行っていても、高齢になるとその人が生来もっている自然免疫が低下するため、炎症が起きがちだ。石倉歯科医院では、そんな患者に対して最新の3DS(Dental Drag Delivery System)を応用する。「3DSは薬剤が入るスペースをもった専用のマウスピースをつけることで薬剤を歯と歯茎にとどめ、新たな細菌の付着や増殖を防ぐことができるシステムです。虫歯や歯周病予防に効果的な最新の治療法ですが、当院ではインプラント周囲炎に対してもこれを用いて、大きな効果があることを確認しています」

日本で初めてCTインプラントシミュレーションを導入。

石倉歯科医院が初めてインプラント治療を行ったのは、1974年。大学病院ですらこの治療法を行っていなかった時代に、先代の院長である、井汲氏の父がはじめたと言う。 「うちは祖父も歯科医で、大正末期にワンピースキャストクラウン、つまり鋳造による一体成形の被せ物を開発し、日本で初めて歯周補綴(ぐらついた歯を被せ物で連結して歯を安定させる治療法)に用いました。その影響もあってか、父は新しい治療法に挑戦することにあまり抵抗がなかったんですね」 最新の知見や技術を常に治療に反映しようという姿勢は、井汲氏の代になっても変わらない。92年には、CTによって得たデータをもとに、専用のソフトウェアによって術前に疑似手術を行えるCTインプラントシミュレーションを日本で最初に導入した。

最近の研究では、インプラント周囲炎を誘発する要素のうち、歯垢のみが原因でインプラント周囲炎になる確率は約24%で、それ以外の70%以上は別の原因であること、そしてそのなかで最大の原因がインプラントの位置的な不具合であることが明らかになってきている。「これを学会で聞いて、世界や日本に先駆けてCTインプラントシミュレーションなどによる精密な治療設計を行ってきたことは間違いでなかったと思いました。

また当院では、歯周病傾向の強い患者様にインプラント治療を行う場合は、治療の前にDNAレベルの細菌検査を行って口腔内の病原菌の種類と量を調べ、悪玉菌を極力少なくするように歯周病の治療をインプラントに先行して行っています。インプラント周囲炎は、術後に発生してから対処するのではなく、治療段階で周囲炎をなくする努力をするべきなのです」
こうした考えは今まではあまり言われていなかったことだが、今後は学会発表などを通じて積極的に発信していきたいと井汲氏は語る。

同時に、今後もインプラント周囲炎を防ぐための治療設計をさらに最適化、精密化していきたいと言う井汲氏だが、そのためにはAIの活用が必要だと考えているそうだ。
「CTインプラントシミュレーションおよびそのデータを反映したガイド器具やナビゲーションシステムを使えば、インプラントを正確に埋入することはできます。ただし使用するインプラントのメーカーや埋入する角度などは歯科医が設定しなければならないので、そもそもの治療設計が間違っているとなかなか正しい結果にたどり着けません」
そのため経験と知識が歯科医師には求められるが、そこをAIで補うことで、より多くの患者を救うことができるというわけだ。
「現在までの臨床的な実績や研究結果を活かして、その社会実装に向けて企業や大学とともに活動していく予定です」
インプラントを一生機能させることで、患者の“元気で長生き”に貢献したいと言う井汲氏の挑戦はこれからも続いていく。

井汲 憲治 医療法人石倉歯科医院 院長
https://www.cic-implant.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。