歯周病が認知症を発生させる可能性があります

皆さんはアルツハイマーという病気を聞いたことがあると思います。このアルツハイマー型認知症は、アミロイドβ(ベータ)といった特殊なタンパク質が脳内に蓄積し、正常な神経細胞を変化させることで、脳の働きを低下させたり、萎縮を進行させたりする脳の病気です。

 

また、内閣府が2017年に発表した高齢者白書によると、今から5年後の2025年には高齢者の5人に1人が認知症になるとも予想されています。

 

 

このため、世界中でアルツハイマー型認知症の治療薬が懸命に研究されていますが、病気そのものの進行を止める決定的な薬はまだ実用化されていないとのことです。しかし、近年、歯周病とアルツハイマー型認知症の関係を示す複数の研究が注目されています。

 

2013年、衝撃的な報告がありました。医学雑誌「ジャーナル・オブ・アルツハイマーズ・ディジーズ」に掲載された研究結果によると、アルツハイマー型認知症の患者10人の脳を調べたところ、うち4人の脳から歯周病の原因菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス菌(以下Pg菌)が見つかったのです。同じ年齢で認知症ではない10人の脳からは、一切検出されませんでした。

 

米ルイビル大学のヤン・ポテンパ博士らの研究チームは、2019年1月、“慢性歯周炎の原因細菌であるPg菌がアルツハイマー型認知症患者の脳内で確認された”との研究論文を公開しました。

 

この研究結果によると、脳内には、Pg菌のほか、Pg菌が産生する毒性のプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)“ジンジパイン”も確認されており、そのレベルは、アルツハイマー型認知症と関連のあるタンパク質の“タウ”や“ユビキチン”との相関が認められたとしています。

 

研究チームは、マウスの口内にPG菌を感染させたところ、6週間後には脳内でPg菌が確認され、脳内のアミロイドβも著しく増加したとしています

 

ところで、脳には巧みな防御システムがあり、血管内に細菌やウイルスが存在しても容易には脳内に細菌やウイルスが侵入できません。この防御システムは、“脳血管関門”として知られています。それではなぜPg菌は脳の中に入っていけるのでしょうか? 

 

口腔内細菌は800種類ともいわれていますが、その中で歯周病や全身にとっても最も病原性の高く、厄介な細菌がPg菌と考えられています。Pg菌は以下の特徴を有しています。

 

① ジンジパインを産生する。

Pg菌がもつジンジパインというタンパク質分解酵素は、タンパク質を切断してより小さな分子のペプチドに変えます。このペプチドはPg菌の栄養となります。固い肉とパパイヤを和えると驚くほど肉が柔らかくなります。これは、パパイヤがもつパパインというタンパク質分解酵素が肉のタンパク質を切断してくれるからです。これと関連して、ジンジパインはパパインと同じ種類のシステインプロテアーゼというタンパク質分解酵素なので、ジンジバーリス(歯肉から見つかる菌)がもつパパインということで、“ジンジパイン”と名づけられました。

 

② 繊毛を持ち組織内に侵入する。

 

③ 細胞外膜に毒素であるLPS(リポ多糖体)有し全身の免疫系に影響を及ぼす。

この中で、Pg菌のジンジパインのタンパク質分解作用により弱った血管を攻撃し、Pg菌が脳神経関門を容易に突破して脳内に侵入していくのではないかとも考えられています。

 

歯周病と認知症、この一見関係なさそうな病気に大きな関係があることがわかったのは、この10年であり、今までの常識を覆すニュースです。

ところで、かつては強酸である胃酸の中で生きられる菌などいないと考えられていましたが、1980年代初めに胃の中に病原菌であるピロリ菌が生息していることが証明されました。その時のニュースを今でも覚えていますが、今では、ピロリ菌が胃炎や胃がんの主な原因であることは常識となっています。

 

今後数年で、認知症の予防法や治療法の一つに、歯科における歯周病治療(特にPg菌のコントロール)が常識となる可能性があります。

 

Pg菌の写真 (”ビジュアル歯周病を科学する”より引用)

▲はの膜外小胞と呼ばれ、その中にジンジパインやLPSなど、Pg菌が持つほとんど全ての毒性因子を貯蔵している。

 

以上、本院のブログ ”あんしん歯科情報+α(2020/10/3)” の投稿文章(文責:院長 井汲憲治)より引用。

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